前歯の根っこに穴があいてしまった治療

左上の痛みが主訴で来院されました。虫歯の治療をしてそれは終了したのですが、他にも問題がたくさんありました。例えば右上の前歯、

だいぶ状態が悪そうです。根の先も膿んでますし、歯茎から膿が出てました。歯と骨のヘリのあたりは骨吸収と、人工材料のはみだしも見れます。土台もしっかりくっついてなく、浮いているように見えます。

抜歯のリスクを十分に伝えて、土台の除去に取り掛かりました。この段階で穿孔(歯の根の中にある管を逸脱して骨のほうに人工的に穴があいている状態)しているように見えますが

だいぶ土台を削り飛ばしましたけど、まだ周りに残っています。歯は相当薄くなっており、

プラスチック(土台を作る材質)の薄い部分が割れてきました。破折したプラスチックを除去すると、

大きく穴があいております。本来の根管(根の中の管、根の先から神経の通り道、歯の知覚をつかさどる)はその内側にあります。

本来の根管はこちらですね。

ちなみに、後ろ側はかなり深い位置まで歯質を欠損しています。

とりあえず樹脂で周りを補強し、根の治療を終わらせていきましたが、排膿が止まらなかったので、外科的にアプローチしました。

はみ出ているプラスチックを

削り飛ばして歯質を出しました。

外科処置後排膿は止まり、レントゲン上も状態は良くはなっているように見えるので、かぶせ物を入れて終了しました。

歯の状態は、治療を重ねるほどに悪くなってしまいます。歯の欠損を人工材料で補うことはできますし、それを前の歯医者さんよりきれいにやり直すことは可能かもしれません。しかし、失った歯は元に戻ることはないからです。

状態が悪くなってからきれいに治療しようとすると…

①治療の予後が悪くなる

②治療自体大変になる(時間もコストも多くかかり、病気の再発や不快症状(痛み)のリスクも高くなる)

皆さん、ほとんどの歯は健康な状態で生えてきて、それはどんな人工材料で治した歯よりも優れたベストな状態で、しかもただでもらえます、28本以上も。でも6歳のころにもらえる、その素敵で健康な歯を、80年以上維持しなければいけないのです。それが大変なことは重々承知しております。でも、治療して詰め物のつぎはぎだらけ、神経も生きてなくて歯が薄くなってしまったものを、一生維持することはさらにもっと困難なことになるのです。

歯医者さんあるあるですが、私は歯が弱いからすぐ虫歯になってしまう、ダメになってしまうという方が本当に多くいらっしゃいます。でもほとんどの場合は、歯が弱いというよりは、う蝕感受性の高い時期に虫歯になり、治療のつぎはぎ部分から何度も虫歯を繰り返しています。治療している歯ほど、虫歯になりやすく、また治療して、またそこが虫歯になり…何度も治療しているのに虫歯になり続けていたら、私は歯が弱いんだと、確かに思ってしまいますよね。おそらくですが、そういう方でも、治療未経験歯(虫歯になったことが一度もない歯)は今後も虫歯になるリスクは相当に低いと思います。

一度治療の連鎖が始まると、確かにそれを止めることはとても難しいことになってしまいます。でもできるだけそうならないように、一つずつの治療を丁寧に、原因にしっかりとアプローチする方法をかかりつけの先生に相談することが大切なんだろうと思います。はっきり言って、専門的に求められる知識はそれほど難しい内容では全くありませんので、特別な歯科医院に行かなくても、信頼のおけるかかりつけ歯科医と良好な関係さえ築けていれば、達成できることではないかな…ただ、歯医者さん、クセのある人多いですよね。

 

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